ハッピー*ライフ 笑顔の裏側5 |
月日は流れて……。
劇の最終日、僕は連日行っていたように劇場の外で並ぶ人達に来てくださったお礼を言いながら、飴を配っていました。小劇団イルカは受付から細かな作業を分担しているためか出演者がお客様の誘導もしてたりします。
「こっちこっち〜〜!」
あっ!!
白い帽子を被り、シンプルなパンツとニットのセーターの上に薄いジャケットを着た瑠璃さんが僕を見つけて微笑んでいました。
うわっ!瑠璃さん来てくれたんですね〜!!
僕は嬉しいのと今日の彼の姿が可愛くて思わず抱きしめたい気持ちになりました。
相変わらず罪な人です。
けれどそんな彼もシンプルなスタイルをしてても目立つのなんのって周囲の人からちらちらと見られています。
「瑠璃さん!」
「し〜〜!」
「あ、すみません」
「最終日になっちゃったけど来たよ!」
「ありがとうございます」
「後で二人で楽屋に行ってもいい?」
「はいっ、もちろんですっ、て……え? 2人?」
その時チョン、と後頭部を固いものでつつかれました。
振り返るとコーヒーの缶を持った隆二さんが立っています。彼はコーヒーを買いにしばらくその場を離れていて今戻って来たところみたいでした。ふと缶を持つ彼の綺麗な指を見ると、そこには変わった模様の入ったシルバーのリングがはめられていて、胸にも同じようなシルバーのネックレスを掛けていました。
彼は抑えた色の秋もののセーターとジャケットを羽織り、ジャケットと同系色のズボンを履いていましたが、やはり彼も瑠璃さん同様目立つので素敵です。
「隆二さん……来てくれたんですね……」
「……ん」
彼は軽く返事をするとやさしく微笑んでくれて、僕は嬉しくて胸が一杯になりました。
「楽しんで行ってくださいね!」
そう言うと僕は二人にもそっと飴を渡します。
二人ともっと話をしたかったけど知り合いが来ていてもあまりはしゃいではいけないと注意されていたので、僕はそのまま次のお客さんの元へ行きました。
「あっ……!」
しばらく飴を配っていると、いつものストレートの髪の前に4つ葉のクローバーをくれた女の子が今日も来てくれていました。
彼女は大人しい感じですが最初に出会った時よりも最近とてもお洒落な気がします。
今日は全身白いセーターとカーディガンでチェックのスカートを履いています。
「凄いね!3日間ずっと来てくれたんだ・・・」
「……はい……」
「ありがとう……」
「……いいえ……」
僕が微笑むと彼女も微笑んでくれました。
さて本番!!
あれから連日歌の稽古や発声練習を繰り返し、養成時代を思い出しながら懸命に舞台稽古を繰り返しました。
『帰還』のスタジオでもらったタオルで汗を拭きながら、僕はみなさんの足を引っ張らないように懸命でした。劇団員のみなさんは夢をそれぞれ持っていて、とてもやる気満々です。
当初僕の出番は多くなかったはずなのですが、何故か全体的にシナリオが修正され、シーンごとに出番が多くなっていました。
僕は主役の刑事さんの部下にやたらに容疑を掛けられて責められまくります。
少しそこは笑いが入っていて、僕が素直に質問に答えてしまい誘導尋問されてどんどん犯人扱いされて行く様子が稽古している最中でも笑われたりして、唯一の見せ場になりました。
先生はあっ、という展開で話を最後まで進めて、まさか僕らもここまでドキドキさせられる展開になるとは思いませんでした。3日間公演で終えてしまうのが惜しいくらいです。
イルカ始まって以来の好評作らしく公演は無事幕を閉じました。
お芝居が終わりお客様を出口で見送るとみんな「楽しかった」と声を掛けてくださって僕らはとても嬉しかったです。
「お疲れ〜! 凄く面白かったよ〜!!」
笑顔の瑠璃さんが差し入れを持って隆二さんと楽屋に来てくれました!
劇団のみなさんもそれぞれ差し入れや花束を持ったお友達と楽しそうにお話していましたが、なんとなくこちらが気になるのかチラチラ見ながら耳打ちしたりして、気にしている人がいました。
ただでさえ彼らは一人でも目立つのに、二人いると更に目立ちます。
後から別の劇団員の方から聞いたのですが二人はお芝居が始まるまでファンや色々な人からの握手責めにあっていたそうです。
それよりも大変なのは……。
「ぎゃあああああ!! 隆二と瑠璃?! な、なんでっ、ど、どうして?!」
仁王立ちになった先生がフリフリドレスを身にまとい、叫んでいました。
先生の叫びに楽屋のメンバーはもちろんの事、隆二さん達も何事かと声の方向に目を向けてしまいました。
最終日だったので都先生もいらしてたのですが・・・先生大興奮です。
今日はあの日会った以上におめかししていてお化粧も濃い目です。
急に僕らに背を向けて化粧直しをし始めるとくるりと向き直り、隆二さんに話したそうにもじもじしはじめました。
「あ、先生、紹介します〜瑠璃さんと隆二さんです」
「えっ?!」
先生は僕が瑠璃さんと隆二さんを紹介したので目をまん丸にさせて驚いていました。
「なんであなたが?!」
大またで驚いている先生に友達の香山くんがそろりと近づいてきました。
「あの・・・都先生、彼は先生の好きな『帰還』の守役の人ですよ」
彼は今更・・・という感じで先生に話し掛けると先生は僕をまじまじと見ました。
「あ、あああ!! あ、あなたっ!! ええ〜〜!!」
先生更にびっくりです。
「うそぉ〜〜!! あなた本当にあの守だったの?! 全然ドラマと違うっ!! 気障じゃないじゃない〜!! も〜!なんで言ってくれなかったの?!」
その場にいた瑠璃さんと隆二さんは先生の言葉に思わずふきだしていました。
それに釣られて周りの人も笑い出します。
あ〜う〜だから、そんなに違いますか〜?僕……。
その後劇団の方達一部を除いて、僕らは打ち上げに参加しました。
瑠璃さんと隆二さんは「場違いでは……」と恐縮して一旦断りかけたのですが、都先生の熱い眼差しに負けて一緒することになりました。
後から聞いたのですが先生ってば瑠璃さんのファンでもあったみたいです。
帰り道、すっかり辺りは真っ暗で、所々街灯の明かりがぼんやり見えます。
あれから僕らは駅で別れて、同じ方面の隆二さんと僕はタクシーで一緒に帰って来ました。
他の人は自分の車だったり、瑠璃さんはタクシーだったりして、それぞれ分散して帰りました。
都先生は残念ながら方角が逆なので隆二さんに名刺を渡して自宅の電話もさりげなく教えていました。
「何だか打ち上げまでつき合わせてしまってすみません」
「ううん、僕らこそ場違いで申し訳ないと思ったよ。よかったのかな?」
「よかったですよ〜! 友達も劇団員のみなさんも喜んでくださったし、僕も嬉しかった!」
「守も?」
「はい!」
「ならいいんだけど……」
「はい」
「脚本家の都先生、隆二さんの昔からのファンなんですよね!」
「そうみたいだね、随分昔の事まで詳しくて聞いてて冷や汗が出たよ」
隆二さんは苦笑いをしました。
僕はなんとなくあの時の先生の家で見た数多くの写真を思い出してクスッと笑ってしまいました。
「どうした?」
「先生の家で見せてもらったんですよ、昔の隆二さん、AV時代の。……可愛かったなぁ〜」
「えっ?! なっ! 何見せられたんだ!!」
僕が含みのある笑いをすると彼は途端に顔を真っ赤にさせました。
その様子が僕には凄く新鮮で、何だか珍しく僕のお尻に悪魔の尻尾が生えてしまいました。
「うわ〜〜!! 耳まで真っ赤です〜! 隆二さん可愛い〜!」
「コラ、からかうなよ、何見せられたんだお前!言え!」
「秘密です〜!」
「こ、こら!」
僕が笑いながら走り出すと彼は半分怒りながら追いかけてきました。
僕は走りながらふと思いました。
隆二さんのこれからの笑顔のうちいくつその裏に僕がいられるのだろう・・・・。 |
夜の歩道に街灯の灯りが二人の影を長くして、僕らの影は揺れながらそのうち一つになりました。
おしまいv
守 「香山くん、都先生変わり者って聞いたけど全然普通の人じゃないか〜!」
香山 「そうか? あの人男だぞ」
守 「げっ! 嘘!!」
香山 「ほんとだよ」
守 「……」
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