「静粛に! 静粛に〜!!」
バンバンと目の前の黒板を叩く男性が一人……。
ここはとある小会議室。
「この集団は先日行われた、「劇団イルカ」第8回公演「海に消ゆ女」で危うく犯人扱いにされそうになった我が守を応援する会である!」
黒板に大きく『ファン倶楽部集会第6回「劇団イルカ」第8回公演で危うく犯人扱いにされそうになった我が守を応援する会!』と書かれてあった。
「舞台公演がそんなに嬉しかったのはわかるけど、それを言うなら、『帰還』の神咲守にしてよ……ぽよやん!」
「煩いな明子、お前は黙ってろ、俺がこのファン倶楽部の創設者なのだ! なんと言ってもナマで見れた事に僕は未だに喜びを感じている! お前らもちろん全日行ったよな!」
そういいながらぽよやんと言われている本世屋久司は目の前に広げてある駄菓子に手をつけた。
「んも〜! なんでこんな奴を代表にしちゃったかな〜〜不覚」
「まぁまぁ、彼は顔はいいんだからいいじゃない?」
「顔?! そんな事言うと、こいつつけあがるから止めた方がいいわよ。性格は崩壊、駄菓子ばっかり食べてるし、いい加減ポヨンチョ、本世屋だからぽよやん!」
ファン倶楽部のメンバー野嶋明子が頬に手を当て、肘をテーブルにつきがっくりとうな垂れた。
彼女はこの私設ファン倶楽部の副代表である。
「ナマの守さまは素敵でした〜」
色白でストレートの黒髪の水鳥碧が、嬉しそうに微笑む。
「そうそう! でも、あんた、なんか守くんに顔覚えられてない? すっごく羨ましいんだけど……だってさ、3日目に彼が飴配ってた時、あんた話し掛けられてたじゃない?!」
ショートカットの少しボーイッシュな大学生、烏丸美佐が羨ましそうにため息をついた。
「そうなんです……クローバーをさし上げたら何故かそれ以来……」
「あ〜私もまだ彼が全然人気ない頃に何かあげればよかった〜お団子でも、おせんべいでも!」
「彼? 人気あるの?」
その隣で先ほどから隆二の写真集を見ていたメガネをかけ、スーツを着た宮慶子が呟いた。
彼女は隆二のファン倶楽部にも入っている。
静まり返る会議室……。
「とにか〜く!! 彼の事務所発信のファン倶楽部がない以上。俺たちで作るしかないと思い立った俺は、こうしてお前らにチラシを配ったわけである〜!」
「汚いな〜唾飛んだよ、ぽよやん!」
「んで集まったのが私たちね……」
彼らは集まっては『帰還』のビデオ鑑賞会、いつの間にか携帯のデジカメで隠し撮りした生写真のとりかえっこ、ドラマの一場面を取り込み加工した携帯の画像までそれぞれ手作りをして交換しあっている。もちろん『瑠璃』が作った『守人形』も作成済み、みんなで『完了!』と頷きあい全員が肌身離さず所有している。
……かなり怪しい集団である。
彼らには不満があった。守の事務所の所在がいま一つはっきりしないのと、どんな売れないタレントでも、ささやかながらにはファン倶楽部らしきものがあるはずなのに、それが無い事だった。
仕方ないのでファン倶楽部を非公認で設立。その後パラパラと関東周辺(全国放送でないので)からファンだという人が集まっている。
彼らの調べによると、守は監督の海倉の所属するところにいるらしいが、その割に宣伝も特になく、アダルト専門なのかと思いきや、どこのビデオにも情報が無い。それなのに有名な『瑠璃』や『隆二』と共演している彼の存在が不思議でならない。
今彼らが求めているのは『守』の情報である。
「ねぇ〜本人と接触できないかなぁ〜」
ふと美佐が大胆な呟きをした。