守公認? 私設ファン倶楽部2


「本人と接触ったって……」
 烏丸美佐の呟きにみんなは押し黙る。
「いくらファンでもいきなり押しかけたら迷惑だろうし、なにか理由がないと……」
 水鳥碧が指を頬に当て少し小首を傾げたように天上に視線を送った。
「もちろんいつか、そうしようと思ってるさ……」
 本世屋は遠くを見つめながら、あごに手を当て、ちょっと気どったポーズを取った。
 彼的には今の自分が少しかっこいいと思っている。
「会うったってスタジオの前で入り待ち?」
 ファン倶楽部副代表、少し大人びていて美人だけれど、性格は男勝りな野嶋明子が口を挟む。
「馬鹿野郎! そんなみっともない会い方ができるか!! そんなんファン倶楽部作った意味ないだろ!! ちゃんとアポを取ってだな!」
 急に声を荒げて怒る本世屋に明子は呆れ顔になる。
「入り待ちを悪く言うなよ。ぽよやんは変なとこで律儀なんだから……」
「私……入り待ち何回もしちゃいました」
 黒髪の以前守にクローバーを渡した事がある水鳥碧が、思わず照れ笑いを浮かべる。
「アホか! もうファン倶楽部に入ったからにはそんなみっともない真似するなよ!」
「え〜!!」
「いいじゃん、もう出待ち入り待ちの件は」
 ファン倶楽部の一人、ショートカットのボーイッシュな烏丸美佐が、ぽよやんを非難の目で見ながら口を尖らせた。

「よしっ、それじゃ次回はそれをテーマに会議を開こう! じゃ解散な!!」
 本世屋がそう言い放つと、会は解散した。それぞれ飲み物やお菓子、椅子やテーブルは各自片付けなくてはならないが、これもいつもの作業になって来ていた。
「じゃあな〜!」
 本世屋が軽く手を振ると、みんなもひらひらと軽く手を振った。彼はこの後バイトがあるらしく、足早に帰って行った。


「接触ならこの間のお芝居が最高のいい機会だったのに、もう終わっちゃったじゃん……。 
 今度いつやるのか全然情報ないし。わからないし……。このお芝居だってほんとに偶然私の知り合いが好きな劇団だったから掴めたような話だしね……」
 明子はため息混じりに言う。
「守さまの事務所は、あまり守さまを宣伝する気がないのでしょうか……」
 碧が困り顔で小首を傾げた。
「情報がわかりずらいのよね。どう掴んだらいいのか困るわよね」
 美佐も先ほどの不満そうな顔色のまま話を続ける。
「……きちんと事務所に連絡した方が一番早いんじゃないの?」
 先ほどからずっと隆二の写真集を見ていた、メガネをかけ、スーツを着た慶子がふと呟く。
「連絡したんだけどさ。その事務所もいい加減でさ〜。ドラマ以外はよくわからないんだって。なんだそりゃって感じよね。入り待ちが駄目だってんなら、私たち永遠に守くんに会えないじゃん、馬鹿だねぽよやん」




 ……大丈夫である。この後彼らは嫌でも守と接触する事になる。いやそれは半ば強引な押しかけだったかもしれないが。
 このすぐ後に彼らにとって最大の事件が待っていた。
 
 それはほんの一週間後に起こる。
 本世屋がいつものように自分の部屋のシャワーを浴び終わり、寝る準備を整えてからソファに座り込んだ。もちろんビデオもセットした。
 彼はジュースを飲みながら、『帰還』のドラマがあと数分で始まることにそわそわしていた。もちろん有料放送なのでみんな各自そのプランには入り済みである。
 お菓子を広げ、準備OKの状態にしていざドラマが始まると画面に集中しだす。
 が……。その集中も衝撃と共にほんの数分で終わる。


 午後1時3分……。
 最初の電話が鳴ったのは明子の部屋だった。明子はテレビ画面を見て呆然としていたが、ふと鳴り響いた電話で我に返った。

『あきこぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!』
「びっくりしたっ!!」
 耳をつんざくような獣のような声がいきなり受話器から聞こえ明子はびびる。
「ぽよやん!」
『なんだよこれ! 違うじゃんかよ〜!! どうしてどうしてそうなったんだ!!』
「そんな事私に聞かれたってわかんないわよ! 私だって今呆然としてるんだから!」
『他のメンバーに連絡……』
「待ちなさいよ! ぽよっ! いきなり連絡したら本気で泣く奴が出てくるから今は止めたほうが!」
 そう言いかけて、自分の携帯がなり始めたのに気づく。
「あ、ちょっと待って、携帯が鳴ってる!」
 携帯に出ると今にも泣きそうなか細い声が携帯から聞こえてきた。
『明子ぉ〜〜!!』
「碧っ……」
『明子っ、うわぁあああん!!』
『明子、俺は今猛烈に悲しいっ!!』
『明子ぉおおおおお!!』
「ちょっと待って二人ともっ、わかったからっ」

 んもう〜泣きたいのは私も同じだってば!!

 明子は二つのスマホをそれぞれ両耳につけ両方と話をしようとした。
『あっ、俺携帯に電話……』
『あ、明子っ……携帯が鳴った……待ってて……』
 半分怒ったように叫ぶ本世屋と、鼻声の碧がそれぞれの携帯に出る。
「あああ……」

 それぞれがそれぞれの友達や同じファンらしき人物と会話を交わしていた。
 互いに二つの電話で話しているので、何がなんだかわからない状態になっていた。

『信じられねぇよ! なんだよ、こんなん裏切りだろ!』
「そうよね」
『お前に話してるんじゃなくて、俺の友達に話してるんだ』
「あ、そう」
『お前にも言ってる』
「どっちだよ、ぽよ!!」

『もう私駄目です……眩暈がしてきました』
「碧、しっかりっ。きっとこれは何かの間違いで……もしかしたら、一時的な事かもしれないじゃない! しっかり、気を確かに持って……」

 それぞれの家のテレビ画面には彼らが望んだ守ではない見ず知らずの守がいた。
 彼らはこれが一時的なものだと言うことに希望を繋いで、もしや守が急病にでもなったのかと思い逆に違う心配も抱えた。翌日事務所に連絡したところ、そこで初めて守が降板したことを知ったのだった。

 



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