ひな祭り☆ |
あかりをつけましょぼんぼりに〜! お花をあげましょ桃の花♪ |
こんにちは、守です。
今日は3月3日! 桃の節句! ひな祭りですね〜!!
世間では女の子さま達がお雛様〜と家で雛人形を飾り、その前でお友達と喜んでいるに違いありません。
それからひなあられを食べたり〜お赤飯を食べたり〜菱餅を食べたりしますね〜そうそう甘酒もありましたっけ。
そしてそんな女の子達のお祭りに申し訳程度に僕の誕生日があったりします。
ひな祭りが中心で僕の誕生日はいつもその付属みたいな・・・。
「守、なに1人でぼけっとしてるんだよ」
「あ、す、すいません〜!」
今僕は飲み屋にいます。
この歳になると誕生日だからと言って特別に誰かから祝ってもらったり、プレゼントをもらったりなんて事そうそうないですよね。
でもさりげなく数日前話題に出たところ監督が飲みに行こう! と言い出して……。
数人のスタッフの人たちと今飲みに来ています。
まぁ、監督達の事だから、いつもの 飲む口実 を作りたいだけなのでしょうけども。
僕の誕生日は悲惨なものでした。
僕には姉がいるのですが、姉と近所の従姉妹達、それとその仲間の女の子同士で毎年ひな祭りのパーティーをしていました。
小さい頃僕は男1人でそのパーティの中にいたのですが、いつもひな祭りがメインで僕の誕生日は申し訳程度だったのです。
そんなこんなでいつもケーキもひな祭りと一緒……プレゼント交換も何故か僕も出費……。
僕はそんな女共だけしか集まらないパーティーなんて出たくなかったのですが、暴力姉が「私達が祝ってやろうってのに文句でもあんの?」と僕を脅迫します。
当然幼くて権力も何もない僕は姉に従うしかなく……。『ひな祭りパーティ☆ついでに守も祝う会』に無理矢理出されました。
一度は近所の男友達を誘った事があるのですが、友達も姉達の勢いに押されて「ご、ごめん守……別にプレゼントとかやるからあの会だけには……」という言葉を残し、たたずむ僕1人を置いて去ってしまいました……。
僕はいつも 守ちゃん ってまるで女の子扱いされたように遊ばれました。
もともと女の子に間違われる事もあったので、自分にしては大きくなってからは随分男らしくなった方だと思います。
小さな頃は無理矢理姉のスカートを履かされ、お母さんが使っているお化粧品や口紅で化粧までされていました。
3月3日生まれだからってどうして女の子みたいに扱われなくてはならないのでしょうか……。
ううっ、切ないです。
昔の事を思い出すと、意識が遠のく僕でしたが、飲み屋の中の喧噪で引き戻されると、目の前の監督が呟きます。
「まぁ、お前の誕生日でなくてもひな祭り! って事で飲んでたけどな!!」
ええ、ええ。いいですよ別に……。慣れましたから。
「そうだそうだ、守。言うの忘れてたけど、さっき俺のとこの事務所から連絡があったんだ。お前のファンが恐らくお前のプロフィール見たんだろうな。お前の連絡先は俺の事務所の所にしてたから、そっちにプレゼントとか送ってきてるらしいぞ」
「……ほんとですか?」
「ああ」
「それは嬉しいです!!」
「お前も最近やっと一部の人間に知られるようになって来たからな!」
そう言って海倉監督は髭だらけの顔をくしゃりとさせて笑いました。
そ、それは凄く嬉しいです! どこの誰かわからないけどありがとうです!!
僕はプレゼントを見るのが楽しみになってきました。
「来たよ〜!!」
その時敷居から瑠璃さんと桐香さんが顔を覗かせました。
「瑠璃さん桐香くん!」
「おお〜来たか!こっち来い!」
二人はどこかで合流でもしたのでしょうか?
春先ですがまだ少し肌寒いので二人ともコートを着ています。
「あ〜お腹すいた〜!!」
「僕も!」
瑠璃さんと桐香くんは空いてる席につくとそれぞれ飲み物を頼みつつタオルで手を拭いていました。
相変わらず二人とも男の子なのに可愛いです。
僕はとてもお腹が空いていたので、先ほどからから揚げとか豆腐のサラダとか焼き鳥とか皿うどん……。色々を食べれる限り食べていました。
「そうだ先にこれ渡すよ、守! 誕生日おめでと〜!」
瑠璃さんは満面の笑みを浮かべて、僕にプレゼントの箱を渡してくれました。
赤い包みに金色のリボンが可愛いです。
「僕からも!」
桐香くんも僕に小さなプレゼントの白い箱をくれました。
「あ、ありがとう〜!」
「おお〜俺からは何もないな! そうだそうだ、俺の愛をやろう!」
「要りません。それに監督は奢ってくれるって言ってたじゃないですか〜〜!」
「きっぱり言うなぁ〜お前よ〜〜! それにしても俺が奢ってばっかりだな!」
「うっ……す、すいません」
「いいぜぇ〜その代りしっかりドラマで返せよ!」
「あ、は、はい……」
僕がそう言うと監督はがははと笑い出して、僕の背中をバンバン叩きました。
「俺の愛はいらねぇか〜あいつのなら欲しいんだ? ん?」
「うっぐ……」
監督が変なこと言うから僕はから揚げを喉に詰まらせてしまいました。
そう言えば。隆二さんは……今日は他の仕事で来れないそうです。
い、いえ、いいんですよ〜だってもう誕生日で喜ぶ歳じゃないですから!
他の人達には僕らのこと誰にも言っていません。
だからほぼ大半の人は知らないはずです。だけどなんだか監督だけは鋭いような気がします。
ここの飲み屋の店の出入り口に今日はお内裏さまとお雛様がいます。
店の主人の趣味でしょうか、ガラスケースに入ったその人形が僕には懐かしくもあり……苦い思い出でもあります。
そうだよ……誕生日だからと言って特にこれと言った事はないんだ。
もう大人だからそんなに大きな事も期待しません。
僕ももう22歳ですし。
でもこうして飲み会を開いてくれた監督や来てくれた瑠璃さん達に感謝です。
僕は彼らと笑い話に花を咲かせながら飲み会を続けました。小さな宴が終わるとみんなに手を振り家路につきました。
夜なのに寒いとはいえ風の中に少しづつどこか気持ちが浮き立つような春の匂いを感じるような気がします。
子供の頃だからできた怒り、悲しみ、苦しみ、喜び……。
全身で感情を爆発させることができたあの日。
結果的に負けても、姉とケンカして大泣きして。
凄く嫌だと思ってたあの誕生会が帰り道みちすがら暗闇の中に降って沸き、何故かとても懐かしく感じました。
……。
さぁ、明日もまた仕事だ……!
いつものボロアパートのそばに差し掛かると僕の部屋のドアの前で誰かが花束を持って立っていました。
あ……。
その人が誰か僕はよく知っています。
その人はとても格好よくて、誰もが憧れる人で。でも本人はそう思われるのが苦手で……。
凄く寂しがり屋で、まじめで、心配性で。僕にとって大切な人です。
子供の頃だからできた怒り、悲しみ、苦しみ、喜び。全身で感情を爆発させることができたあの日。
今はたった一人のためにそれができるのです。
たった一人の人にだけ僕の感情をぶつけられる人が。
誕生日なんて……もういい大人なんだから。 |
僕は嬉しくて嬉しくて我慢できずにその人の元へ走り寄っていました。
おしまいv