それぞれのクリスマス 02


 その後、海倉監督、桐香くん、鶫くん、彰人くんがそれぞれきてくれました!
 みんなリビングに入るなり隆二の格好を見て声を上げます。
「隆二、正装とは気合入ってるな!」
「いや、違うんだって……」
 隆二さんは気まずそうに苦笑いします。
 海倉監督はここにくる前にもうどこかで飲んできたようです。ほろ酔い気分で吐く息がお酒臭かったです。
「そーなんだー!! 俺のために隆二さん素敵な格好してくれたの〜」
 瑠璃さんが先ほどから隆二の腕に腕を絡ませて離れようとしません。
 隆二も着替えようと隙を狙うのですが、瑠璃さんが一瞬も逃さないという勢いで、とうとうみんながくるまでその格好でいる羽目になりました。
 もうそのままの格好でパーティ突入ですね。
 僕が和室の部屋のテーブルに料理を並べていると、背後から海倉監督が腕を回してきました。
「おーおー! 守くん、相変わらず料理の腕はよさそうだなぁ」
「監督、お酒臭いです……」
「ねー見て見て!瑠璃〜〜。今日はサンタ仕様なの!」
 桐香くんは用意した衣装に着替えると女の子版サンタの格好になりました。
 相変わらず可愛い格好が似合います。
「あーはいはい、可愛い、可愛い〜!」
「あーなんか瑠璃つれない〜」
「だって桐香どうせ明日デートだろ? もう他の男の物になっちゃってるから〜絡むと彼氏に睨まれそうだも〜ん」
「もうっ、瑠璃ったら……」
 瑠璃さんがそう言うと桐香くんは顔を真っ赤にしていました。
 それを鶫さんもなんとなく暖かい目で見ているような気がします。
「彰人、お前そっちの唐揚げの方が多くね? 俺にくれよ」
「え、嫌だ」
「いいからよこせって」
「嫌だー!! 俺唾付けちゃうからな」
「付けようが付けまいがそんなもん構わないからよこせ」
「えーーーー!!」
 パーティが始まる前から鶫くんと彰人くんの小競り合いが始まります。


「メリークリスマス!」
 しばらくして準備も整うと僕らはテーブルの前に座りました。監督の掛け声でみんなグラスに注がれたシャンパンを手に乾杯しました。
 自宅のパーティ会場はあっという間に結局いつもと変わらない宴会場になりそうです。
 もうこうした光景を何度見た事でしょうか。
 それでも僕はこの空間が大好きです。大好きなみんなと美味しくご飯やお酒が飲める。最高に幸せです。
 僕もみんなとシャンパンを飲むと、部屋のエアコンの調節をしたり、みんなが食べる食事の量を見計らってまだある分を足していきます。
「守さんももっと飲んで!」
 桐香くんに勧められて僕もすぐにグラスの中身を飲み干してから差し出しました。
「あっ! 守さんもお酒の飲み方わかってきたんだぁ〜!」
 桐香さんは嬉しそうに笑顔を向けました。
 桐香さんの顔を見ていると、僕はあの厳しい表情の昴さんの顔を思い浮かべて、どんな風に彼らが出会ってお互いに惹かれて言ったのか思わず聞きたくなりました。
 でもなんとなくそれは照れくさいというか……。
 隆二がいる目の前で聞くのもなんとなくしちゃいけないような気持ちでした。

 それにしても先ほどから隆二が僕に何度も視線を向けています。
 瑠璃さんが隆二に絡みつき過ぎてるのを気にしているみたいです……。
 僕は彼と目が合うとにっこり微笑み返しました。
 もう先ほどからそれを何度も繰り返していて、隆二はその度にほっとした顔をするんです。

 そんなに気にしないでもいいのに……。

 だって瑠璃さんはたぶん隆二の事が好きで、今日はなんとなく絡みたい気分なんですよ。
 そういう時もあるんじゃないかなぁ……。

 しかし……瑠璃さんは隆二に絡みすぎて、隆二は正装の上着を既に脱がされていました。
 瑠璃さん今日はピッチ早すぎるかも……。
 って……。
「瑠璃さん、今日車……」
 僕は思い出して隆二に絡んでいる酔った瑠璃さんに尋ねてしまいました。
「んー? そうだっけ? いいのいいの、今日は俺、隆二さんのベッドで一緒に寝かせてもらうから〜」
「お前一人で寝ろよ」
 隆二ももう既に酔っ払いを介抱しているという感じです。
「うわーー瑠璃! 大胆!」
 桐香さんが思わず黄色い声を上げます。
「なんなら、守と一緒に寝てもいいらよ?」
 瑠璃さんが僕のほうに視線を向けました。
「いえ。隆二さんと寝てください。僕ここで布団敷いてのびのびと寝ますから〜」
 僕はワインを片手ににっこり微笑みました。
 酔っ払いの介抱をしている隆二の姿を思い浮かべるとなんだか面白くて少し笑いそうになってしまいました。
「ちぇっ、余裕なの〜。なんだか面白くなーい! 今日は守、年下の男の子にナンパされちゃってずっとその子の傍にいたんだよー」
 隆二がえっ、という顔をしました。
「彼、守のコートの裾離さないの! 守、人がいいからずーーっと二人で寄り添ってたの俺見ちゃったもんね〜」
 
 る、瑠璃さ〜ん(^^;

「この年下キラーが!」
 海倉監督が茶化します。
「ち、違いますよー!」
 ちらっと隆二の顔を見ると顔は笑ってても目が笑っていません。
「ほんとに違うんだってばー!」
 僕が必死に誤解を解こうと説明すると
「なんだぁ〜迷子の男の子の面倒見てたの!」
 部屋の空気が和らぎました。
 瑠璃さんはいたずらっこみたいに舌を出します。
 桐香くんは少しだけつまらなそうな顔をしました。
 桐香くん、一体何を期待していたんでしょうか……。

 クリスマス会という飲み会がそろそろ終盤に近づくと、完全にできあがった監督を彰人くんと鶫くんが抱え込んでいます。
 監督は既にだいぶ酔っ払っていて、何か意味不明なことを叫んでいます。
「守さん! いつもごちそうさまっす!」
「さまっす!」
「いいえ〜」
「今度は〜年末年始会にするか〜? 今度は昔のスタッフ連中何人か連れてくるからな〜」
 もはや目の焦点が合ってないのに、飲み会の打ち合わせだけはしっかりしている監督です。
「はいはい」
 俺は酔ってねぇ! と言い張る監督を彰人くんと鶫くんがなだめながら抱え込み、三人はそのまま帰っていきました。
「ごちそうさま!」
 桐香くんは満足そうに普段着に着替えて上着を羽織ります。
「桐香くん、これ」
「あ、やったー! ありがとう!!」
 今日の料理を桐香くんが気に入ってくれて、あまったら欲しいと言うので、僕はタッパーに入れてあげました。
「あの……」
「はい?」
「もしよかったらその、今度昴さんとも一緒にきてくださいね」
「えっ、でも……いいの?」
 少し恥ずかしそうに言う桐香くんに僕は微笑みました。
「彼がよければ僕は構いません」
「ありがとう……今度誘ってみるね!」




 みんなが帰った部屋はとても静かで、僕はまたああ、今年もイベントがまた一つ終わってしまったなぁという寂しい気持ちになりました。
「さて、ツリーとか料理の後片付けしようかな」
 僕がすがすがしい気分で背伸びをしていると背後から重い声が聞こえてきました。
「守、話を勝手に終わりにするなよ」

 あ……。

 振り返ると隆二の膝枕で瑠璃さんがぐったりと寝ていました。

「あ、ははは」
「ははは、じゃない。こいつをどうするか……」

「とりあえず、ベッドの部屋に寝かせる? ここにはまだ布団敷けないし」
「う〜ん……仕方ないな」
 隆二さんは瑠璃さんを抱えると、そのままベッドルームへ向かい、彼を寝かすと戻ってきました。
「やれやれ、やっと着替えられる」
 部屋着を取り出すと、隆二はすぐにも開放されたかったらしくシャツのボタンを外し始めました。
「着替えたら、片づけ手伝うから」
「ありがとう」
 いつも隆二は片づけを手伝ってくれます。
 彼が手が空いてる時はいつもです。
 彼も一人暮らしが長いから自分のことはほとんど自分でできるので、僕らは分担して家事はやっています。
 ただ料理だけはどうしても苦手らしいので僕が任されています。
 外での働き分を考えると隆二の負担の方が大きい気がするんですが、彼は別にその事を気にしてはいないみたいです。

 流しで僕がお皿を洗っていると隆二が腕まくりして残りのお皿を持ってきます。
「なぁ、やっぱり食器洗い機買ったほうがいいと思うんだけどな」
「いいよ、普段は二人きりなんだし、手で洗った方が早いから」
「そうか? 別に遠慮しなくてもいいんだぞ?」
 隆二が僕の背後から腕を回してきました。
「さっきはごめん」
「何が?」
「瑠璃の奴しつこくてさ、どうしたんだろうな、あいつ」
「……」

 隆二は瑠璃さんのこと知ってるんだろうか?

「……わからない?」
「ん……」
「たぶん好かれてるんじゃないかな?」
「……なんでそう思うんだ」
「だって……」
 僕は残りのお皿を洗い終わると布きんで手を拭きました。
「なんとなくそうかなって……」
「……お前でもわかるか……」
 僕は隆二を見ました。
「わかるかって、隆二わかってたの?」
「うん……まぁ、その……」
「そっか……」
「ごめん」
 隆二が変にしおらしく謝るので僕はくすっと笑ってしまいました。
「どうして謝るの? 変な隆二」
「そうかな?」
「うん」

 僕らは次に和室のテーブルを片付けて、そこに布団を敷きました。
 瑠璃さんはそこに寝かされます。
 ベッドルームから和室へ移動しても瑠璃さんは先ほどからぐっすりで、少しも起きる気配がありません。
「こいつ重くなったよな、背も伸びたし……」
「会った時は少年ぽかったのに、今やすっかり青年ですよね」
「ああ」
「……彼、女の子と結婚するみたいですよ」
「えっ!」
 隆二は驚いた顔をしていました。そうですよねー。僕も同じ反応だったし。
「そうか……それはよかったな」
「ええ、よかったです」

「彼、子供が欲しいみたいです、野球チーム作れる程欲しいって」
 僕がそう言うと、隆二はははは、意外だなって顔で笑いました。
「ちょっぴり羨ましいかな。僕が女の子だったら沢山子供産んだかもしれないなぁ」
「そうだな。でも案外この作品の作者はいい加減だから、頼めば子供くらい産ませてもらえるかもしれないぞ」
「えっ! まさか!」
 僕らは少し乾いた笑を浮かべました。
「まぁ、間違いなく裏に持っていかれるだろうけどなそういうものは」
「ですよね〜」

「さ、お風呂入って寝ますか」
 僕はタンスから着替えを取るとそのまま浴室に行きました。
 脱衣場にはいつものバスタオルがかかっています。
 お風呂場はとても綺麗です。浴槽は大理石でできています。
「僕には過ぎた家だなほんと……」
 隆二に借りたお金は少しづつですが返しています。
 いんちきな利息があるわけではないので、着実に目に見えて返せてるのが安心します。
 隆二は受け取ろうとしないけど、僕はとにかく彼の口座に入れ続けています。
 ふと後ろを振り返ると隆二が入ってきました。
 いつもの光景ではあるのですが、相変わらず綺麗で逞しい体つきで僕は目のやり場に困ってしまいます。
 このお風呂場はシャワーが二つついているんですよ。お互いに好きに浴びれるのがいいですよね。
 浴槽もお湯が張ってあって常に循環されていて綺麗にしてあります。
 いつものようにそっと隆二の手が僕の背中に触れるときゅっと背中を抱きしめられました。
 肌と肌が触れ合ってお湯も気持ちいいので僕はとても解放的な気持ちになります。
 僕の顎に手を添えられるとそっと背後からキスされました。
「……今日もお疲れさま」
「お前も疲れただろう? 色々準備してたからな」
 ああ、なんかこの瞬間が一番幸せ……。
「……ってあ!」
「ん?」
「る、瑠璃さんいるじゃないですか!」
「そういえばそうだったかな」
 隆二さんは視線をそらしてどうでもいいようなそぶりをします。
「そうだったかなって、あ、ダメっ!!」
「大丈夫だよ、あいつぐっすり寝てるから」




                        こんなところで続きですみません;

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