それぞれのクリスマス 03


「まずいですよ!ダメだったら」
「大丈夫だよ、さっき見たらぐっすり寝てたし」
 そう言いながら隆二は慣れたしぐさで僕を背中から抱き寄せます。大きな手と長い腕が僕の体を包み込むのです。
「ダメっ、あっ、うっ……はぁ……」
 顎に手をかけられ引き寄せられると、吐息が漏れた僕の唇にそっと隆二の唇が重なります。
 僕は自然に彼に体を預けていました。
 僕がスキンシップに弱いのは誰よりも隆二は良くわかっています。
 性欲が強いと言う事も、もう頭の先から足の先の爪まで、すべての性感帯に触れられまだなお僕の深くへ探り続けようとする彼の貪欲さに溺れていることも。
 僕のことを一番わかってくれている人です。
 
ピンポーン!

 その時です、ふいに玄関の方から何度もピンポーンという音が聞こえてきました。
「うわっ!マ、マズイ!!!! 隆二、瑠璃さん起きちゃう!」
「ん?」
 僕は隆二の体から離れがたい気持ちを抑えて、隆二から離れると、浴室から出て、近くにあったタオルで体を拭きました。
 すぐに下着を着て、ルーム着に着替えるとインターフォンの傍まで行きました。
 僕がそれだけ慌てたのも、あまりにも何度もベルが鳴るからです。
「はい!!」

 慌てていたので少し息が切れています。

 もう誰なんだよ、せかすなぁ……。

「こんにちはーーー!!」

 !!

 とっても見慣れた人がインターフォンのカメラの中でアップになっていて、今にもこぼれそうな笑顔でウィンクしたり、手を振っています。
「あっ!」
 僕はすぐに玄関の扉を開けました。
「守さーん! お久しぶり〜!!」
「さ、桜さん!!」
 とびきりキュートな笑顔で少し厚めの化粧をした桜さんが笑顔で立っています。
 目の前にいる人はドラマで一緒だった桜さんです。鏑木桜役の桜フランソワさん……。
 桜さんは髪がピンク色で細身だけれどとてもスタイルがよくて、話によると彼女はおじいさんがフランス人だとか……。
 僕も先祖の何代か前に外国の人がいるのですが、僕よりもずっとフランス人っぽくて恐らく彼女の方がそっち寄りの血が濃いのだと思います。
「ああ、そそ、忘れるといけないから、これ先に渡すわ! 遅くなっちゃったんだけどこれっ、結婚のお祝い〜!」
「ありがとうございます」
 僕は驚くほど大きなリボンのついた大きな箱を受け取りました。なんだか思っていた以上に重くて驚きました。
「結婚式の招待状ありがとう。とても出たかったのだけど、出れなくてごめんなさいね。親戚の不幸があってフランスに飛んでてしばらくあっちに滞在してたものだから……」
 僕は首を振りました。
 彼女は大きなトランクを玄関脇に置くと、笑顔を向けました。
「こちらに瑠璃いますよね?」
「え、ええ、あ、とにかく上がってください」
 桜さんは玄関を見渡しながら素敵なお部屋……と呟くとブーツを脱いであがりました。白いウールのコートを脱ぐと僕はそれを受け取りすぐにハンガーに掛けました。コートを脱ぐと桜さんは可愛らしい花柄のワンピースを着ていて胸の部分にフリルがついています。
 腕がとても長くて手先が綺麗で、爪にはネイルサロンで施したのだと思われる、クリスマス色の綺麗な爪がスパンコールのようにキラキラと光っていました。ブーツを脱ぐ仕草が綺麗だなと、ふと思ってしまいました。
 部屋に入って和室が見えると、そこに瑠璃さんが寝ているのを桜さんは見つけました。
「瑠璃ーーー!」
 桜さんはそう言うと瑠璃さんのいる布団に真っ直ぐ向かって行きます。僕を横切る時果実のような甘い香りがしました。
「んーー?」
「瑠璃ー酷いわー駅まで迎えに来てくれるって言ってたのにー!!」
 そう言うと桜さんは瑠璃さんを何度も揺すります。
「んーあーー? あっ!」
 そう言うと瑠璃さんは慌てて起きました。
「えっ?!今何時? 俺どうしちゃったんだっけ? ん? 何がどうしてどうなった?」
「んもうーーー。日付変わっちゃってるわよ、タクシーでここまで来たんだから!」
「うわっ! さ、桜っ、どうしてここがわかった?!」
「電話したの! 瑠璃の家に! そしたらここでクリスマスパーティーしてるって聞いて」
 そういうと桜さんは少しだけむくれた顔になりました。むくれても可愛らしい横顔です。
 そうこうしているうちにガウンを着た隆二さんがお風呂から出てきました。
「どうしたんだ守?」
「あ、隆二、うんとね、桜さんが来た」
「桜……?」

「まぁ! お久しぶりです!」
 桜さんは隆二さんを見ると手を振りました。
「ああ、やぁ久しぶり」
「すみません、うちの瑠璃がお世話になっちゃってーもうーすぐ連れて帰りますから〜!」

「うちの瑠璃?!」
 僕は声を上げてしまいました。
 瑠璃さんの彼女ってまさか、まさかあわわわ!!
「ったくよー子供じゃねぇっての、それに俺なんか2日酔いみたいだからもう少し寝る」
 そう言うと、瑠璃さんは再び掛け布団を手にすると布団にもぐり込みました。
「んっもう!!」
 桜さんは思い切りむくれた顔で拗ねてしまいました。拗ねた顔も可愛いです。
「桜さん、よかったら少し瑠璃さんの気分がよくなるまでいてもいいですよ、ねぇ、隆二」
「えっ、あ、ああ別に構わないけど……」
「でもー折角のクリスマスに……ごめんなさい〜」

 流石に体調の悪い瑠璃さんをこのまま帰すわけにもいかずに、瑠璃さんをしばらく寝かせる事にしました。

「あっ、早々、折角だから、プレゼント開けてもいいですか?」
「そうね、開けてみて!気に入ってくれるといいんだけど〜」
 僕が大きな箱のリボンを取り、うんしょと箱の蓋を開けると、そこにはお鍋やらフライパンが入っていました。
「おお、これはフランスのブランドの製品じゃないか」
 背後で見ていた隆二さんが声を上げました。
「うふふ、とっても評判のお鍋とフライパンなのよー。守さん料理が上手って聞いたから是非にって!」
「ありがとうございます!」
 僕はブランドはよくわからないのですが、これがとても物がいいことだけはわかります。
 これでどんな物を作ろうかちょっとワクワクしてきました。





                        物凄い遅くなって本当にごめんなさい;;たぶん次で終わりかな?

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