ハッピー*ライフ
笑顔の裏側2

 
「ねぇあなた!」
「わっ!」
 突然目の前に大きくて丸いチーズケーキを差し出されて僕は焦りました。
「チーズケーキ試食してくれない? 私の手作りなの」
「うわぁ〜!美味しそうですねぇぇぇ! いいんですか〜!」
 僕は驚きながらも美味しそうな匂いに顔が緩んでしまいました。まんべんなく全体についている白いクリームが美味しそうです!
 思わず笑顔がほころぶ僕にお手伝いのその女性は僕の反応が嬉しかったのか、テーブルにそれを置くと切りはじめ、ハーブティを入れて差し出してくれました。
 僕は遠慮なくチーズケーキをいただきました。これがまた美味しくて! ほっぺたが落ちそうになりました。
「美味しいです!!」
「本当?」
「まるでケーキ屋さんにあるチーズケーキみたいですよ〜!」
 僕がにっこりと微笑むと、彼女は目をキラキラさせて喜びます。
「嬉しい〜!! ここまでになるまでに、何度も何度も失敗を繰り返して来たの。試食係みたいにしちゃってごめんなさいね。早速ダーリンに食べさせてあげなくちゃ☆」

 え、そうか……お手伝いさんだとばかり思ってたけど、この人は先生の奥さんだったんだ!

「ああ、そうだ! ……僕もあのっ、これイチゴタルトなんですけど……せ、先生に……」
 そう言っておずおずと『イチゴタルト』を差し出しました。
「まぁ! 何かしら……? きゃー美味しそうなタルト! ありがとう〜!」
 フリフリエプロンの奥さんは包みを開けると先程よりももっと目をキラキラさせて僕に抱きついて来ました。

 うわっ! 昼間から不倫はいけません奥サン!!

 全然関係ありませんが、何故か僕は『イケナイ団地妻』というB級アダルトビデオのタイトルっぽい言葉を思い浮かべてしまいました。



「……昼間から僕の奥さんになにしているのかな?」
「うわぁああああ!!」
 奥さんに抱きつかれたままの僕の目の前にいきなり下からにょきっとパイプを咥えたやさしそうな男の人が顔を覗かせました。
「ごめんなさいっ、いや違うんです、こ、これは誤解!!」
「あらあなたお帰りなさい〜v チーズケーキはいかが?」
 奥さんは僕の慌てる様子も気にも止めず、僕の腕をするりと抜けてそのままダンナさまのもとへ駆け寄ります。
 そして二人はそのままキスをしました。

 うは〜(><)昼間から当てられてます僕っ。僕は目の行き場に困ってしまいました。
 
「これは美味しそうだ」
 先生は奥さんがいそいそと出したチーズケーキを早速美味しそうにほおばり始めました。
 二人ともとても幸せそうで、僕もなんだかニヤけちゃいます。
「これこれ、青年の前でみっともない……」
「あんっ、だってぇ……」

 ……今回は全く問題なさそうですね、どこが変わり者なんでしょう?仲良さそうな夫婦じゃないですか〜。
 その先生がチーズケーキを食べ終わると僕の方に視線を向けました。
「ところで君は今日は?」
「あ、はいすみません、「劇団イルカ」のお芝居の脚本を頂きに……そのっ……」
「うん?」
 先生は呑気にパイプをふかしています。
「……あのっ……大変だとは思いますが、お芝居の開演まであと10日弱なものでそのっ……」
「そうだね……大変だ……」
「……」
 
 僕らの間にしばらく穏やかな空気が流れました。
 って流れてる場合じゃありません!!
「先生〜〜!!」
「ああん……イチゴタルト美味しいv」
「……」
「そうだねぇ……おいっ、いいのか? 何とかしないで」
 先生は僕の目を見つめました。 
 
 ええ、だから先生が何とかして欲しいんです。

 と思ったら先生は僕の方を見つめているのではなく、背後の奥さんを見つめていました。
「んーあーそだね……」
 
 ……?
 えっ、えーーーー?!
 も、もしかして?!
 
「あのっ……ごめんなさい、脚本家の先生ってもしかして……」
 
 僕が振り向くと先程までの軽いノリの奥さんがふっ、と微笑みました。
「ごめんなさいね、脚本、タルト食べ終わってからでいい?」


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