ハッピー*ライフ 笑顔の裏側4 |
「ねぇねぇ、これも見てよ!」
先生は色々な雑誌から切り抜いた隆二さんのスクラップを僕に見せてくれました。
数々の写真の種類に驚きつつも、僕はしばらくぐるぐると悩んでいました。
先生のコレクションはすごすぎて僕は圧倒されてしまいましたが、次から次へとスクラップが出てくる中で僕は耐え切れずにとうとう尋ねてしまいました。
「あのっ、ど、どうして・・・隆二さんはひ、ひねくれていたのですか?」
質問するのに少し勇気が要ったので少しどもってしまいました。
「んーわかんない」
がくっ……。
先生ぇ〜〜写真の説明に夢中であっさり答えすぎです……。
「んーでもっ、恐くて固い表情から変化した時期は知ってる」
「変化?」
「うん。ほらこの時期とこの時期を見てよ。顔つきが違うと思わない? これってね、AVも何作目からかな……最初はネコだったのにタチになってから普段の表情も変わったの」
「えっ、ネコッ……タッチ??」
「あ、そっか。わかんないわよね……いいのいいの、気にしないで」
気になりますよぉ!
「その時期に何があったのかわからないけど最初に比べて段々いい感じにイメチェンしてったのよね。男らしくなったって言うか。まぁ、それで可愛らしいイメージの彼が好きだったファンの中で一部離れた人もいるんだけどね」
……。
「で、いつの間にか私たちファンに微笑んでくれるようになったのよ。目に光が宿ったカンジ……。それでも恐いって印象は消えなかったけどね」
一体隆二さんに何があったのでしょう。
気になるけど、先生も知らないんじゃ、仕方ないかなぁ……。
「ああっ! でもっ!!」
「うわっ!!」
いきなり先生が両手の拳を振り上げてフリフリドレスとエプロンを揺らし、仁王立ちのように立ち上がったので僕はびっくりしました。
「最近の彼はへ〜ん!!」
先生は何故か興奮していました。
「はい?!」
「格好よさに磨きがかかってるのは嬉しいんだけど気になるのはあの『余裕』なカンジっ! 僕今幸せです〜! ってオーラは何〜〜?! 前以上の輝きは一体何なの?!」
「輝いているんですね〜」
「そおだ! あれは絶対恋人がいるせいよ! 間違いなく、今までかつてないほど幸せな恋をしているのよ!!」
「ええ〜〜っ!」僕が驚くと先生は軽く睨みました。
「あなた、彼のファンの癖にほんとにニブいわねー! そんな事も察知できないようじゃこれから先大変よ!」
「すみません……」
「あああ〜!!」
「えっ!」
「あなたの顔見てて思い出したっ!」
先生はまたしても猛ダッシュで棚をあさり始めると、何かの雑誌を取り出しました。
「みんなは気づいてないみたいだけど一部では今さっき私が言ったみたいに彼に恋人が出来たんじゃないかって騒いでるの! でもみんな相手の実態が掴めてないみたい……」
そう言うと先生は雑誌に載っている「帰還」の僕の写真を指差しました。
「でも私はね思うんだ。こいつと隆二があやしい〜〜って!!」
「ブッーー!!」
僕は思わず口にしていたハーブティーを先生の顔にふきだしてしまいました。
「汚いわね……」
「す、すみません」
「こんな気障な奴と隆二なんてプライベートではあまり結びつかないけど、私は怪しいって言っているのにみんなあれは役の中の話だって信じてくれないのよね〜!
特に隆二のネコ派は特にね!」
「はぁ……」
「ね、1ファンとしてどう思う?この気障と隆二結びつく?」
「う、う〜ん……」
と言いますか、それより僕ってそんなに『気障』かなぁと僕の頭の中は別の疑問が湧いていました。
僕がわからないなぁ……という顔をしていたので先生は違うかなぁと腕を組みながら再び思いを巡らしていました。
僕は先生が一人で悶々と考え込んでいるのを横目に机の上に散らばった隆二さんの写真や、雑誌の切り抜きに目を向けていました。
そこには僕の知らなかった彼の笑顔がいくつもいくつもあって……。
『隆二すさんでいたのよね〜』 『今までかつてないほど幸せな恋をしているのよ!』 |
「……」
隆二さん……。
この沢山の笑顔の裏側に抱えていたあなたの想いはどんなものだったのですか?
……もしそれが先生の言ってたみたいに何かで気持ちがすさんでしまい、辛くて苦しいものだとしたら、余計笑っているあなたの顔を切なく思います。
そしてその一つ一つの写真のあなたが愛しくもありました。
「あ、そうだっ、すっかり話込んじゃったけどっ」
先生は切抜きを大事そうにしまい込むと思い出したようにパソコンに向かいました。
パソコンの壁紙はセピア色の隆二さんの写真がありました。
「あなたは……ええと……」
「『劇団イルカの者』です」
「そうそう! イルカさんよね。ゴメーン! 脚本あともう少しなんだよねー。でも、今日あなたと楽しくお話できたから、他の仕事後回しにしてもこれを優先させる事にしたわ」
先生は舌をぺロッと出しながら、笑顔で僕に応えてくれました。
「ありがとうございます!!」
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